インド市場を開拓していた頃の話です。当時の私はNASの販売に力を入れていました。
ただ、当時のインドのコンシューマ市場は主役がUMPC+ポータブルDVDといった状況。そもそも家庭で「常時ネットワークにぶら下がるストレージ」を買う文化が薄く、NASを一般層に売るのは正直かなり厳しい。そこで狙いを切り替えて、デザイナーや結婚式カメラマンなどの“プロシューマ”向け、そして公官庁案件を狙い始めました。
ところが公官庁案件は、入口がまず分からない。窓口が見つからない。担当部署も分からない。現地アシスタント営業のミリンダも攻め方を知らない。そんなモヤモヤの中でミリンダが言いました。
「NASの案件について相談があります」
私は内心ガッツポーズです。遂に来たか、と。
「はい、アルミーケースがどうのこうの…」
……アルミケース?
うちのNASはアルミフレームの樹脂ケースだ。アルミ筐体限定みたいな仕様があるのか?それとも軍用品みたいに堅牢性が必要なのか?確かにインドは暑い。頭の中で一瞬で妄想が広がります。
「アルミケース?ウチのNASはアルミフレームの樹脂筐体だよ。案件でアルミ筐体が指定されてるの?」
「? フレームワークの話ではなく、アルミーケースです」
会話が噛み合わない。私は完全に「???」になりました。
で、よくよく聞いたら、ただの聞き間違いでした。
アルミ(Aluminum:アルミナム)じゃなくて、アーミー(Army)。
つまり「アーミーケース(軍事案件)」だったんです。インド軍がNASのリプレイスを進めている、という話。
インド英語に慣れると分かるんですが、Rが“ル”っぽく聞こえたり、Aが“ア”で強めに入ったりして、耳が慣れてないと別の単語に聞こえる瞬間があります。
たとえば「My father’s computer data lost」が「マイ ファーザル コンピュータル ダタ ロスト」みたいに聞こえます。それも超絶早口で。
当時は何とか聞き取れるようになったんですが、今もう一度やれと言われたら…多分無理でしょうね。
でも、こういう“聞き間違いから始まる案件”って、現場っぽくて嫌いじゃありません。
アルミだと思ったらアーミーだった。インド市場の開拓は、そんなところから始まりました。