デバイスドライバ開発競争があった時代
今のPC周辺機器で「デバイスドライバを自社開発しています」という話は、ほとんど聞かなくなりました。特にビデオカードは分かりやすく、性能差の主因は良チップの選別、vBIOSの設定(OC/電力/ファン制御)、そして冷却設計です。ドライバ自体は基本的にGPUメーカー提供のものを使い、各社が“ドライバで差を付ける”余地はかなり小さい。
でも昔は違いました。ビデオカードのドライバは、自社で作る(または大きく手を入れる)のが当たり前だった時代があります。GPUメーカーからは一応「モニターに表示できる」レベルの基礎ドライバが提供されるものの、そこから先の機能実装やチューニングはボードメーカー側の仕事。つまり、同じGPUでも「ドライバ次第で体験が変わる」余地が大きかった。
PC雑誌のレビューでも「同じチップか?」と疑われるほどのベンチマークスコア差がつくこともありました。
さらに当時はアナログ出力(VGA)が主流で、アナログは回路設計の出来がそのまま画質に出ます。ノイズ、滲み、発色、解像感……同じ解像度でも“見た目の差”が目に見えて出る。だからドライバだけでなく、回路設計も含めて「メーカーの腕の差」が出やすい世界でした。
優秀なビデオカードメーカーとして有名だったのが、カノープス(現グラスバレー)です。ドライバと回路設計の両方で抜きん出ていて、「速い」「画が良い」「作りが良い」と言われる代表格でした。
同じく“ドライバが強い会社”として語られたのが当時のヤノ電気です。Mac用周辺機器の世界では、他社製ドライバ(たとえばAdaptec系)を採用するメーカーも多い中、ヤノ電気はMac OS向けデバイスドライバを自社開発していた。社内に「Mac用の天才プログラマがいる」という話は業界では有名で、Mac向け周辺機器ではめっぽう強かったことを記憶しています。
もちろん、これは良い悪いの話ではありません。ただ、こうした“ドライバで差別化できた時代”が確かにあった、という話です。
そして今。ドライバによる差別化が難しくなった分、独自ファン採用・デザイン・色・RGB・質感・アプリの使いやすさ・総合的なブランド体験など、目に見える部分での差別化が主流になっています。かつては内部(ドライバと回路)で勝負していたものが、いまは外側(見た目と体験)で勝負する割合が増えた。PCパーツの歴史を振り返ると、こういう“勝負どころの移動”が見えてくるのが面白いところです。