人の体は水でできている -Bluetooth進化の舞台裏-

人の体は水でできている -Bluetooth進化の舞台裏-

Bluetoothが普及し始めた頃、今みたいに「ワイヤレスは便利で快適」なんてことは全くありませんでした。印象はむしろ逆で、遅延がひどい、全然飛ばない、途切れる。用途も音楽というより、トラックドライバーが使うようなハンズフリーのヘッドセットが主役で、音もモノラルが中心。私は当時ちょうど商品企画の現場にいて、その“扱いにくさ”を肌で覚えています。

特に厄介だったのが、ユーザーがスマホをどこに入れるかで通信状態が激変すること。胸ポケットか、ズボンのポケットか、カバンの中か。これだけで会話がブツブツ切れる。理由はシンプルで、人の体の大半は水だからです。Bluetoothが使う2.4GHz帯は、人の体に遮られたり吸われたりしやすい。つまり当時は、電波にとって人間が“巨大な障害物”でした。

ただ、面白いのはここからです。Bluetoothのバージョンが上がって接続性が改善されるまで、現場ではずっと「アナログ」な工夫を積み上げていました。規格の力で解決する前に、まず設計で解決できないかを探ります。

たとえばヘッドセットの形状。アンテナとして利得が取りやすい“長さ”や“形”を意識して、外観そのものが通信性能に効くように工夫する。次にチップアンテナの実装位置。基板のどこに置くか、周辺に金属やノイズ源がいないか、筐体やバッテリーとの距離はどうか。少し位置が変わるだけで飛び方が変わる世界でした。さらに回路基板上のパターンアンテナ。基板の端の取り回し、GNDの扱い、近傍パターンの逃がし方……やっていることは地味なのに結果は派手に出る。まさに“積み重ねの工学”です。

そうして「途切れる」「飛ばない」を少しずつ潰しながら、Bluetooth自体も進化していきました。通信方式やプロトコルが改善され、干渉に強くなり、接続が安定し、常用できるレベルに近づいていく。今のBluetoothは、もちろん規格の進歩が大きい。でも、あの頃の現場で積まれていた“アナログな改善”が土台にあったからこそ、体験としての「当たり前」が成立したとも思います。

結局、無線は「規格がすべて」ではありません。使う場所、持ち方、人間の体、筐体の素材、アンテナの置き方。そういう現実の要素に、技術がどう折り合いをつけてきたか。その積み重ねがBluetoothの歴史で、だからこそ、今の“普通に繋がる”は結構すごいことなんですよね。
現在ゲーミングの世界でも無線が普及し始めてますが、裏には同様の"アナログ的な"設計品質の改善が存在しています。

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