2章 「チャプター7」

2章 「チャプター7」

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◇ 2章 「チャプター7」

【登場人物】
中の人:Mad
D社 社長:P氏
台湾大手EMS企業:Tさん

チャプター7が「終わり」を意味することを私は知っていた。
なぜなら前職で、間接的ではあるものの「債権者は殆ど何もできない」ことを痛感していたからだ。

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前職の米国支社長N氏の言葉を思い出す。

2008年、米国で大手量販店サーキットシティが破綻した。
最初はチャプター11(日本でいうところの民事再生)で再建を目指したが、最終的にはチャプター7でそのビジネスを終えた。

N氏はサーキットシティ破綻後、経過報告の為に緊急帰国し本社に顔を出していた。
たまたま休憩フロアで居合わせたN氏から聞いた話はこんな内容だった。

「サーキットシティの件な、今社長に報告終わったとこなんや。」
「Madさんは知らんやろーけどなぁ。。。チャプター7出されたらこっちはなーんもでけへん。」
「最初は11やったからなんとかなるんかいな思っとったけどやなぁ、結局7出て終いや。」

N氏は90年代、秋葉原電脳街で営業のトップとして獅子奮迅の采配を見せていた。
当時はPC関連では系列系の量販店は少なく、個人商店レベルかそれが少し大きくなった程度の販売店が多かった。

「昔の俺の仕事はなぁ、毎日お客さんとこの「におい」を嗅ぎに行きよんねん。ここはそろそろ飛ぶんちゃうか、ここはまだ行けるやろ言うて、毎日売掛の回収のことだけ考えとんねん。商品売んのは若い連中の仕事や。」

「ヤバいと思たらな、トラックで乗り付けてウチの商品、ヨソの商品なーんも関係あれへん。高そーな商品をとにかく積めるだけトラックに積むんや。清算はその後や。」

コンプラが煩い今の視点で考えると無茶苦茶であるが、当時はこんなものだった。

「でもアメリカでチャプター7出たらな、自分とこの売掛(債権)自分で回収したらあかんねん。え・ぬ・じ・ー。管財人いうのが居って残ってる資産をぜーんぶ保全してもうてな、後から「はい、おたくんとこの配分はこんだけでっせー」いうて終いやねん。」

「ホンマなーんもでけへん。今日社長に状況報告したらな、「お前は指をくわえて待ってるだけかー!!」いうて怒んねん。ないない。ホンマなーんもでけへんで。」

「ほな、ウチらアメリカではなーんも売らんほうがえーんちゃいますかー、言うたったわ。」

「そしたら「チャプター11の段階なら商品回収に動けただろー!」って言いよんねん。アホらし。あっちでトラックで店舗に乗り込んだら銃で撃たれるっちゅうーねん。」

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私があの電話を受けた時、P氏は既にアメリカに到着し現地で弁護士を雇っていた。
P氏の行動は素早かった。

だがチャプター7が適用された今、現地でP氏に何ができるのだろうか?
自分が彼の為にできることは無いのだろうか?

そういえば親会社が同じ境遇のはずだと思い起こし、T氏に連絡を取った。

Mad 「Tさん今いいですか?」
T氏  「どうせ例の件だろ?でもあんまり面白い話は無いと思うね~。」
Mad 「やはりチャプター7だと対策無いんでしょうか。。」
T氏  「いや、クロージングに向かってるよ。」
Mad 「!? え、チャプター7出てる状況で回収手段があるんですか??」
T氏  「ファクタリングかけてたんだよ。保険だよ保険。売掛金回収を保証する保険。」

T氏の会社はどうやら保険を掛けていたようだ。
なるほど、さすが大手。抜かりが無い。

Mad 「でも在庫の引き取りで揉めてると以前おっしゃってましたよね?」
T氏  「ファクタリングはね、相手が支払う意思を示している限りなかなか適用されないんだよ。」
Mad 「ということはMad Catzは瀬戸際まで何とかしようとしていたんですね。」
T氏  「いや、こっちとしては向こうの足掻きをあんまりそういうポジティブな意味には取れないなぁ。だってこっちは散々引っ掻き回された挙句、向こうが倒れたらあっさりと保険適用、だろ?」
     「もちろん従業員もたくさんいただろうから気の毒だし、熱狂的なファンが付いてたブランドみたいだから勿体ないね~。」

T氏の会社はファクタリングで救われていた。
取引先の信用度と仕向け地で変動はあるが、基本ファクタリングの手数料は高い。
前職でインドを担当していた際は全ての取引に適用していたが、現地での売価を1マークも2マークも引き上げなければならないほどコストに大きく影響していた。

深夜電話を受けた時のP氏の焦りっぷりから見てファクタリングはかけていなかったのだろうと想像していたが。。。やはりかけていなかった。

P氏 「Madさん、私の為に色々と調べてくれてありがとうございます。」
    「おっしゃるとおりファクタリングをかけるべきでした。。でも最初はかけていたんです。」
    「取引額がどんどん増えていく中、適正な信用度を超えてMad Catzを盲信していたことは否めません。。」
    「あと恥ずかしい話ですが、取引額に比例して高くなってたファクタリング手数料をケチってしまったという面もあります。。」

本人が既に十分反省していることを掘り返してしまい申し訳なく思った。。

P氏 「でもねMadさん、心配しないでください。私は大きな決断をしました。」
    「実はこちらで雇った弁護士が非常に協力的でして、彼と一緒にD社の債権と債務を徹底的に洗い出したらとある対策が出てきたんです。」
    「まだまだ問題山積ですぐには解決しないと思いますが。。でも私は頑張ります!」

大きな決断?
対策がある??

Mad 「え?でもこの状況で。。何か秘策でもあるんですか?」
     「そういえば先ほど債務という単語が出ましたが、何かMad Catzから預かってるものが??それが関係するとか?」

P氏 「私の工場にはたくさんのMad Catzの「金型」があります。」
     「ご存じの通り、なんせ私達は彼らの製造工場ですから。」
        「回収に拘り続ける限り事態は改善しません。私は社長として決断しました。」

そしてP氏はこう続けた。

     「Madさん、私はMad Catzを復活させます!」


3章 「蠢く債権者たち」につづく

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